メール着信のランプに気づいて、紗綾はテーブルの上に置いていた携帯を取り上げた。
「んー、誰からメールぅ?」
 読み終わりかけたところで隣からのぞき込まれそうになり、慌てて待ち受け画面に戻す。
「なんでもない、携帯サイトからのDM」
「えぇー、怪しいなぁその慌てっぷり。オトコの人からじゃないのぉー?」
「そのろれつの方が怪しいと思うよ、高部さん……あー、こんなとこで寝ちゃだめだって」
 二つ隣に座っていた菜津子が、座布団を枕に寝転がってしまった経済学部の高部嬢を揺するが、彼女は起き上がろうとしない。酔いがかなり回っているらしく、不明瞭に何か呟くばかりである。
「……いいか、もう」
 五分ほど後、菜津子はそう言って起こす努力をあきらめた。高部嬢はほぼ、夢の中に入りかけているようだ。
「まったく、すぐ回っちゃうくせになんであんなに飲むのかねえ。これで三度目じゃない」
「大丈夫? もうあと三十分ぐらいで解散だよ」
「ま、お店の人に保冷剤借りたら平気でしょ」
 一度寝入るといくら揺さぶっても起きない高部嬢だが、冷たいものを首に当てると一瞬で目を覚ますのである。酔いつぶれても、対処方法があるだけまだマシと言えるだろうか、と紗綾は思った。
「けど、池澤さんが来ると思わなかったな、今日」
「え、どうして?」
「だってこの頃、あんまり元気なかったじゃない。てか、浮き沈み激しいっていうか。バイトまだ見つかってないから金欠だって言ってたし、お酒好きなわけでもないでしょ。飲み会に来る余裕があるのかなーって思ったから」
「……うん、まあ、そうだったかな。だからこそ気分転換しようかなー、って」
 答えがしどろもどろになるのは、いろんな意味で気まずい思いが湧き上がってくるからだった。
 人前では情緒不安定を表に出さないように、と努力しているつもりなのに、浮き沈みが激しいと思われてしまっている──ということは、時にはかなり極端で不自然な言動にもなっているのだろう。
 誰かといる時はできるだけ、口数を多くするようにしていた。黙っているとどうしても物思いに沈みそうになるから。
 その、物思いの原因である記憶が蘇ると、場所に関係なく、顔を上げていられなくなってしまう。