「そういうこと。ついでに料理も教わっとけば一石二鳥じゃない。あんた、おかずのレパートリーが驚異的に少ないんだから」
「……はっきり言ってくれてありがとう」
 舞の率直さには慣れているけれど、今みたいに、少々グサリと来る時もたまにある。
 ──けれど今はいっそ、親友ぐらいの度胸がほしいかも知れない。わりと本気でそう考えた。

 ゴールデンウィークが過ぎれば、季節は着実に夏へと近づいていく。
 昼休みが終わる直前に教室へ駆け込んだ時の紗綾は、服の下にだいぶ汗をかいていた。二百人以上が入れる大教室には、大きな格子窓から日差しがふんだんに差し込んでいる。下の方が何ヶ所か開けられているおかげで、かろうじて空気はこもった感じではなかったが、それでもかなり室内は暖かい。
 空いている席を見つけて座りかけたところでチャイムが鳴り、同時に担当講師が入ってくる。危ないところだった。
 必修科目は出席を取る場合が多いから、サボると面倒なことになるといろんな人(主に先輩)に言われている。特にこの科目の講師は、講義の最初に出席票を配る上に、欠席は一度しか認めないという厳しさなのだ。まだ五月前半の時点で、一度きりの欠席チャンスを使ってしまうわけにはいかない。
 ギリギリになった理由は、三分前まで、厚生課のセンターにいたからだった。今いる大教室の講義棟から建物四つ分ほど離れたところで、下宿やアルバイトの紹介受付、カウンセリング室などがある。
 そこの掲示板やファイルで、アルバイトを探していたのだ。ボランティアサークルの活動は土日のどちらかが中心のため、平日で遅い時間にならないものを希望していた。一年の間は授業が多いから、遅くなったり休日が全部つぶれたりすると課題がこなせないと思った──のも一因だが、活動のない休日はなるべく、孝を訪ねるのに使いたいと考えたのである。
 ……しかし、まだ五月初めという時期なのに、求人数は多くなかった。センターの職員曰く、連休前にたくさん入ってきたのだが、早く決まるパターンがほとんどだったらしい。さらに、平日のみ短時間でというのは難しい条件だと言われた。土日、両日は無理でも片方は出られることを希望する所が大半なのだそうだ。
 考えたことがなかったが、言われてみれば友人や先輩の多くは、遊びに行かない休日はバイトをしているような気がする。舞などは、塾講師補助の仕事だから平日夜が中心だが、店などのサービス業だと当然違うわけだ。
 どうしようかな、と紗綾は悩んだ。バイトが決まるまでは、必要なお小遣いとサークル活動費は出してあげると母親に言われているが、あまり長引かせるのは申し訳ない。
 考え込んでいると、右隣から潜めた声で名前を呼ばれた。座った時には誰もいなかったので、少し驚きつつそちらを見ると、サークルの一年先輩に当たる女子学生だった。この科目は必修だが、履修は何年次でも良いことになっている。だいたい、三分の一が一年で、次の三分の一が四年生。残りが二年と三年というような配分らしい。