申し訳なさそうな苦笑いの後、ふいに表情を引き締めて、
「それに、どうせ外食ばっかりしててバランス悪いだろうからって言ってたし……確かに、おばさんの心配しすぎじゃなさそうだよね」
 タッパーを手に冷蔵庫の中を、次いで床に置かれたコンビニの袋を見ながら紗綾は言う。最近ほとんどスーパーには行っていないから、冷蔵庫にはろくな食材がない。だから今日の昼から明朝の食事用にと思って、レトルトやら総菜やらを帰りに買ってきたのだ。
 だが年中そうだと思われるのはしゃくだし、母親に伝わったらまたややこしくなる。孝は言い訳を始めた。
「たまには自炊もするよ。まあ、最近は家にいる時間少ないから確かに外で食べること多いし、買い物もあんましてないけど」
「にしたって、なんにもなさすぎじゃない? 冷蔵庫、バターと食パンぐらいしか入ってないよ」
 そんなに何もなかったっけ、と思わずぽかんとする。再度振り返った紗綾がにやりとしたのを見て、やられたと思った。
「野菜とかもあるけど、結構日にちが経ってそうだよ。きゅうりなんかへなへなだし。もったいない。まああんまり料理しないわたしが言うのもなんだけど」
 と言ってから、慌てたように口に手を当てる。
「あ、ほら、うちはお母さんが料理好きだしうまいからつい頼っちゃって。わたしだってたまには作るよ、自分のごはんぐらいなら」
 さっきまでの小姑っぽさはどこへやら、あたふたと取り繕う口調。きっと紗綾も普段は、料理はめんどくさいと考えるタイプなのだろう。
 なんだかおかしくなって、吹き出した。しばらく笑みを抑えられずにいると、
「……なに笑ってんのよう」
 少しむっとした、すねたような口調にまた笑いを誘われる。見た目は年相応に育っていても、こういうところは子供の時と変わっていない。いつも年より上にふるまいたがっていた、けれど本当は人よりも幼いところのあった、あの頃の紗綾と。
 そんなふうに思えて、安心すら感じていた孝なのだが、紗綾の方はすっかりむくれた顔になってしまっている。二回ほど咳払いの真似をしてから、
「ごめん、いや、なんか変わんないなーって」
 謝りはしたものの、正直に言ってしまったのがまずかったようで(その上、笑みもまだ消しきれていなかったと思うので)、紗綾はますます気分を害したように黙り込んでしまった。
 ……さてどうしよう、と少し真面目に考える。女の子の扱いは得意ではない。
 女の子に限らず、人付き合い全般、長けているとは言えないと思う。少なくとも、気の利いたことを言える口のうまさは持ち合わせていない。だからせめて、できるだけ相手の希望は叶えたいと思って、普段からあまり自己主張をせずにいる。仕事上でさえ、必要最低限の要求で留めてしまうことが、ないわけではなかった。