校長の動きは速かった。


「ではレンブラント君、ジオルタ君。二人ともよろしく頼むぞ」


 レンとジオは校長の立派なデスクの前に並べられ今にも掴み合いを始めそうな形相で睨み合っていた。


「なんでこいつと僕が一緒に仕事しなくちゃならないわけ?」
「こっちのセリフだモラハラ野郎!」


 校長が提案した人事はこうだーーライナルトの後任として、ジオを正教員にする。主に実習を担当するため、ジオの指示を受けてレンが準備などを行う。さらに、猫二匹は学校で面倒を見るので、レンの肩書きにあらたに「いきもの係」を追加するーー。


「テメーの指図なんか受けるかよ」
「受ける受けない以前に、バカすぎて何を指図しても理解できないでしょ」
「うるせー! バーカ!」
「お前がバカ」


 二人のやり取りを見ていた校長がぱんと手を叩くと、つむじに小さな電気が起きて髪の毛を少しだけちりちりにした。少しだけだったが効果は絶大で、レンもジオもとりあえず大人しくなる。


「引き受けてくれるよな?」


 校長の語尾は疑問形だったが、想定される解答ははい、イエス、がってん承知の助などなど。お前らに選択する権利はないですよと、校長は言外にそう言っていた。

 レンとジオは歯を食いしばりながらこの人事を承諾した。

 そして。
 学校のあちらこちらで猫の姿のシルフィとライナルトが仲睦まじく過ごす様子が見られるようになり、生徒たちに大層可愛がられたという。


「おかしいな。ライナルトのやつなんで猫になれたんだ?」


 と、レンは一人呟いた。
 時計塔の話は元々ジオを騙すために広めた嘘を、その場のノリでイリヤたちにも話しただけだったのだが。

 本当に願いが叶うなら、自分が実行してジオルタに「レンブラント様」って呼ばせたかったな……と、レンは密かに悔しがった。