ジオがいない電車は、どうしても緊張した。

(全員カボチャだと思えば平気。カボチャはうるさくないしおいしいから人間より偉いけどね)


 ジオの声を思い出して落ち着こうとしたが、同時に変な理屈も思い出してしまい、イリヤは公共の場だというのに吹き出しそうになる。

 勉強、とは言ったものの、彼女には勉強よりも友人たちに聞いて欲しいことがあった。

 ……ジオに本を借りたときに見つけた、日記のことだ。

 一冊だけ分類シールが貼ってない本がある、と思ってぱらぱらとめくったら、そこにはシールの文字と同じ整った筆跡でーー多分、女の人のことが書かれていた。


「マリア?」
「そう。マリアさん」
「それは」


 ナターリアは水筒の中身をひと口あおると、イリヤの目を真っ直ぐに見て言った。


「間違いなく、ただの友だちじゃあないっすね」
「ということは……恋人?」


 ヒルデはいつも眠たそうなのに、この時ばかりは真剣に聞き入っている。

 三人は、食堂の日当たりのいいテラス席に勉強道具を広げていた。もちろん、イリヤが日記の話題を持ち出してからはただ広げるだけになってしまっている。


「恋人……」


 イリヤはヒルデの言葉を鸚鵡返しにして、やはりそうか、とうなだれた。