「では、行ってきますね!」
「うん、気をつけて。知らない人に声かけられてもついて行くんじゃないよ」
「はい!」


 イリヤは手持ちの中でいちばんお気に入りのワンピースで出かけた。


 わざわざ学校に行って勉強会をするのだという。友達ができたことはもちろん、魔術界隈の微妙に変人多めな空気感が、イリヤにとっては居心地が良かったようだ。


 イリヤは家にいる間も静かだが、イリヤが静かに本を読んでいるのとそもそも不在にしているのとでは大違いで、ジオはひとりぼっちでしんみりとした。お茶を飲んでつくため息が壁に反響して、ジオは自分が突然十歳も老け込んだような気がした。


 くまの着ぐるみパジャマ姿ではしゃいでいた頃のイリヤのことをジオは思い出す。イリヤはこれからもジオが驚くようなはやさで成長して、ジオが教えていない新しいことをたくさん覚えて、やがてはひとり立ちをするのだろう。


 現に、学校の友人たちと集まるなんて、人嫌いのジオにとっては考えられないようなことだ。今だって、勉強なんて一人でする方がよほど効率がいいだろうに、と思うぐらいだが、イリヤが楽しく生きてくれるのは純粋に嬉しい。それどころか、変に自分の影響を受け過ぎなくて良かった、と安堵さえしていた。


 もっと写真を撮っておけば良かったーーなどと考えていると、体がだるくなり節々も痛みだし、これはいかん、と体温を測ったら、しっかり熱があった。


 大人しく寝ているか、イリヤもいないし、とジオは自分のために煎じ薬を作り、寝室に引っ込んだ。