イリヤがこの家にたどり着いたのは、つい昨日のことである。
 元は孤児院にいたのだが、どうしても辛くなって逃げ出したのだ。与えられる仕事はきつく、ぼろを着せられ、食事はわずかだった。
 逃げ出したところで行くあてなどあるはずがない。孤児院は街からはやや離れた山中にあった。子供の足でなんとか山を降り、当てずっぽうに歩いてみて、ようやく見つけた民家で、イリヤはパンとスープを与えられた。

 その家の親切な老婆は言った。「あなたを助けてあげたいけれど、ごめんなさい、うちにはあまり余裕がないのよ。その代わり、助けてくれるかもしれない大人を紹介するわ。心配しないで。立派な大人とは言えないけれど、根はいい子なの」

 老婆に教えてもらった通りに歩いて、『立派な大人とは言えないけれど根はいい子』の家はとうとう見つかった。着いた頃にはあたりはすっかり暗くなっており、歩き疲れたイリヤは明日の朝声をかけようと思い、そのまま地面で倒れ込むように眠ってしまった。

 そして、

「……なに。こいつ」

 魔術師に見つかった。