「あいつら、散々茶化してくれちゃってさ」

 帰り道。
 電車の窓から差し込む夕日に照らされて、ジオはやや不機嫌そうだった。
 タミヤの家でこれまでの一切を話す間、俯き加減でどこか決まりが悪そうにそわそわしていた姿を思い返して、イリヤは今さら自分も恥ずかしくなってくる。

「そういえば」

 と、気まずさを振り切るように声を上げると、ジオがびくりと反応した。

「さっきタミヤさんにいただいた絵本。わたしも読んでみたいです」

 ジオは少々面食らったように、絵本を渡してくれる。
 イリヤはその本をめくりはじめてーー思わずため息をつきそうになった。表紙もおどろおどろしいが、中身はそれにも増して暗くて怖い本である。

 自分がもうすぐ消えてしまうことを悟った電球は必死に瞬くけれど、やがて力尽きて、あっさり新しい電球と取り替えられてしまうというお話だ。子供の時に読まなくて良かった。トラウマになっていたかも知れない。

 なのでイリヤはただ、

「わたしこの本、嫌いです」と言った。

 するとその短い感想が意外だったのか可笑しかったのか、ジオはけらけら笑い出した。

「えっと……どうしたんですか」

 笑っている理由を訊ねると、ジオは一言、

「なんでもない」と言った。

 ジオの手が、イリヤの手に重なる。
 急にそんなことをされて驚きながらも嬉しい。
 二人の家の最寄駅は、もう少しだけ先である。