レンは夜の校内を見回りしていた。この仕事は嫌いではない。なにかが起きそうで恐ろしいような、それでいて愉快な気分になる。仕事というより、趣味に近い。

 懐中電灯の灯りを天井に当てて遊びながら歩いていると、職員室の中に青い光を見つけた。お化けだろうか。レンはしめしめ、と思った。お化けを捕まえてジオルタを脅かすのに使ったらさぞ面白いことになるだろう。

 わー。やめてくれー。

 間抜けな様子で慌てるジオルタを想像して、レンはニヤニヤした。そっと職員室の扉を開け、光に近づいていく。

 しかし近づくにつれそれがパソコンの灯りだと判り、レンはあれ? と思った。そして、職員室の電気を全て点けた。ジオルタがパソコンの画面をじっと見つめていた。レンは職員室の電気を全て消した。


「……レンブラントから君が夜中に職員室のパソコンで成人向けサイトを見ていると通報があった」


 校長はジオルタに向かって言いにくそうに告げた。「ああそうですか」ジオルタは焦点の合っていない目でそれだけ呟き、校長に「さすがに否定しろよ」と言われてしまう。

「成人向けサイトのくだりは嘘だろう。しっかりフィルタリングしてるから」校長は咳払いをした。「しかし、君はどうも疲れているように見える……いや、そんなレベルじゃないな。いつ死んでもおかしくない。やつれ過ぎだ」


 ジオルタの返事はやはり、「ああそうですか」だった。校長はため息をつくしかない。

 校長はもはや何を言ってもああそうですかしか言わない廃人のようになってしまったジオルタの手に、一枚の藁半紙を握らせた。

 その簡素な紙には、大胆な筆致で『命令 休職(とりあえず)一ヶ月』……と、書かれていた。

 ジオルタはその紙に目を落とすと、「ああそうですか」と言った。