二人で洗濯物を干していると、ふと【マリア】が言った。夢ってある? と。


「夢ですか?」
「うん。夢」


 そんなこと考えたこともなかったジオは、妙な表情になった。


「特には……。まあ魔術をやるんだろうなとは思います」


 すかした野郎だ! と騒ぐバカな兄弟子を思い浮かべながらジオは言う。

 おかしな答え方になったにも関わらず、【マリア】は「そっか。いいね」とにこやかに言った。

【手】はその時現れた。

 穏やかな気候の中に、禍々しく巨大な手が浮かんでいる様子は不気味だった。しかし、【マリア】は恐れる風もなく、そちらに歩み寄って行く。

 その背に向かって、ジオは思わず手を伸ばしたが、届かなかった。だから【マリア】は、振り向いたとき、彼が手を伸ばしたことにさえ気が付いていなかった。


「マリアさん」


 僕は、あなたが。


「お元気で」


【マリア】はにっこり笑って頷くと、小さく言った。


 またね、と。


 彼女の体は巨大な【手】に包まれて消えていく。

 そして、後には何も残らなかった。