イリヤが答える前に、ジオは「もしかして前に住んでた人?」と続けた。

「そ、そうです!」イリヤはわけもわからずジオの早合点に乗っかることにした。

 ジオはやはり不機嫌そうに、「だからって急に来られちゃ困るんですけど」とかん高い声で言った。いや、かん高いというよりは、声変わりが済んでいないのだろう。


「あ、ですよね、すみません……」
「で、何の用ですか」
「えーと……実は、忘れ物を取りにきまして」


 ふーん、とジオは片方の眉を上げた。やや見上げられているためか、彼はどこか生意気そうに見えた。


「中、入れてもらっていいですか」
「僕の荷物だらけだし見た感じどの部屋も空だったのでその忘れ物が見つかる可能性はめちゃくちゃ低いと思いますけどそれでも探したいならお好きにどうぞ」


 小さなジオはいつものジオより厳しく、より嫌味たらしいがおおむね自分の知っている通りでイリヤは心底安堵した。何が起きたのか、ここは実際どこなのかわからない中で、一応は知り合いがいるのだ。一応だとしても。

 イリヤはこの偶然に心から感謝して、「ありがとうございます!」と半ば叫ぶように言った。刺々しい態度を取ったジオにしてみれば意外な反応だったようで、一瞬驚き、妙なものを見る目をした。

 早速家探しを始めようとするイリヤを、「ちょっと」とジオが止める。

「前の住人だからってあまりあちこちいじらないでくださいね。えっと……」

「マリア」自分の口から出た言葉に、イリヤは自分で驚いた。「マリアって呼んでください」

「……マリアさん」


 ジオはめんどくさそうに復唱した。そして、「僕はジオルタ」名乗られて、知ってます、とイリヤは思い、少し笑いそうになる。そんなイリヤに、


「名前なんか覚えなくていいので、なるべく早く帰ってください」


 とジオはあくまで冷たかった。