体が深い落とし穴の底に落ちていくような感覚のなか、このまま死んでしまうに違いない、とイリヤは本気で思った。どこまで落ちていくのだろう。怖くて目も開けられない。

 墓の敷地内だということに気が付かなかったのは、悪いことだったかもしれない。だからって殺す? こんな簡単に?

 いやだ、死にたくない、ジオ。


「たすけて」


 叫んだあとで、イリヤは自分の体がもう落ちてはいないことに気がついた。おそるおそる起き上がると、そこは草がまばらに生えた土の上。ぺんぺん、と叩いてみると、しっかりとした地面の感触だった。

 そして何より驚いたのは、そこが自分が暮らしてきた家の庭だったということだ。

 ジオと出かけてからの記憶を辿ってみて、恐ろしい魔術警察の男とその獰猛そうな犬のことを思い出したイリヤは身震いをした。もしかしてみんな悪い夢だったのかも知れない。あの警察の人なんて、いかにも悪い夢そのものといった感じだったし。

 目の前に人影が現れて、ジオだ、と思う。こんな姿を見たら、妙な顔をされてしまうだろう。

 イリヤは慌てて立ち上がったが、奇妙なことに気がついた。

 ジオが自分よりも小さいのだ。

 まだ夢の中なのだろうか、と首を傾げるイリヤを、ジオは下から不機嫌そうに睨みあげて言った。


「……誰?」