「ジオルタ。落ち着いて聞いてね」


 師はわずかに震える弟子の背をやさしくさすった。


「【時流し】は聞いたことがある?」

「……はい」


 ジオルタは頭の中でその言葉を何度も繰り返した。知識としてはある。ただ、イリヤがそんな目に遭ったことを信じたくはない。

 時流しは、過去・未来を問わず、ある一定の期間、ある時代のある時間に流される、魔術師のみに用いられる刑罰だ。軽い刑だとされているが、魔術警察の不気味な男が言っていた通り、戻って来られないこともある。流された先で何らかのアクシデントに巻き込まれ命を落とす場合だ。

 大抵の者はいつの時代のものかもわからない服を纏って疲れ切った顔をして戻ってくるが、安心はできない。


「知っているなら、待つしかないことも分かるわね」


 苦い唾液が口の中に広がる。返事もできないままに、ジオルタは項垂れた。すぐ側にいたのに、何も出来なかった。

 ジオルタ、と師はそれでも優しく語りかける。


「あの子は強い子よ」


 タミヤは、偶然行き合ったひどく痩せ細った少女のことを思い出す。彼女と出会ったとき、わけもなく、ジオルタが頭に浮かんだ。

 ジオルタがこの少女を救い、やがてこの少女がジオルタを救うだろう。根拠はないが、タミヤはそう確信していた。


「きっと戻ってくるわ」