レンブラントは酷い目に遭った、二度と来ない!と文句を言って帰ったあとの家は静かだった。

 朝のように食卓を挟んで二人は向かい合い、どちらも何も話さずに冷めゆくお茶をちびちび飲む、という気まずい時間を過ごしたあと。


「やっぱり、だめですか」


 先に口を開いたのは、イリヤの方だった。


「どうしてもここを出て行かないといけないですか」


 やや間を置いて、ジオは「きみはここにいない方がいい」と答えた。イリヤの方を見ずに。「自由になるべきだよ」

 その後に続いた、もちろん生活できないなんてことにならないように手助けはするよ、という言葉はまるで言い訳みたいだ。


「きみのために言ってるんだ」


 その時、ふとジオはイリヤの方を向いた。


「わたしのため?」


 イリヤは訊ねると、立ち上がってすっとジオに近づく。そして、彼の頬に触れた。

 ーーわたしのためと言うのなら。

 キスをしようとしたけれど、ジオは唇が触れるよりはやく顔を逸らした。


「ーー十八歳」


 ジオは立ち上がりながら、言った。


「十八歳の誕生日までに、きみの家を用意する」