イリヤの返事は早かった。


「わかりました。じゃあ下僕はやめます。わたしは、えっと……」
「今のところ居候だね」
「い、居候」


 便宜上とはいえ家族とまで名乗った仲なのに、今更居候とは。

 今までが下僕だったことを考えれば、栄転なのだろうか。けれどイリヤはあんまりだ、と思った。せっせとのぼってきた階段からいきなり突き落とされたような気分だ。


「とにかく、もう下僕じゃないってことですよね。じゃあ口ごたえします」


 宣言するのもおかしな話なのだが、ジオは話してみるがいい、とでも言いたげに椅子に背を預けた。それを合図にイリヤは「口ごたえ」をした。


「わたし、ここから出て行きたくありません」
「ふーん。どうして?」
「それは」できるだけ長く、ジオと一緒にいたいからだ。「……ただのわがままですけど」


 皿に落ちたトーストひとかけをイリヤは口に含む。ジャムをたくさん塗ってあるのに全然味がしない。


「もしかして、わたしが邪魔になったんですか」
「なわけないでしょう」


 ジオはきっぱりと否定した。


「かわいい子には旅をさせよ、って、知ってるよね」
「知らないです、そんなの」
「嘘はよくないな」


 イリヤはますますムッとした。


「要するに、わたしを成長させるためにここを出すってことですか」
「そう」
「そんなこと言って、ジオこそ恋人でも出来たんじゃないですか」