誰かと付き合うなら僕に紹介してね、絶対だから、絶対。

 突然ジオにそう言われて、イリヤは頭が真っ白になった。

 僕はイリヤと交際する相手はどんな人間でも、いや人間以外でも、君を大切にできる立派なやつしか認めないから。


「どうしたんですか? 急に」
「どうもしないよ」ジオは朝食のトーストを牛乳で流し込む。「言っておこうと思っただけ」


 ジオ以外の誰とそんなことになると言うのだろう。

 人の気も知らないでーーと、イリヤは主人相手に少々苛立ってしまう。


「それに、イリヤももう大人だからね」
「大人だからとか関係ないですよ」


 そう。関係ないのだ。子供の頃からジオが好きだったのだから。


「急に変なこと言わないでくださいって」
「ーーそろそろさ」


 ムッとして言ったイリヤの言葉を、ジオは遮った。


「考えてもいいんだよ、将来のこと」
「話が見えないんですが」
「だから、」ジオは皿の上に指先のパン屑を落とす。「もう僕の下僕はやめてもいいってこと」


 つまり、どういうことなのか。
 いつかの妄想を思い出してしまう。下僕ではなく妻に。いや、まさかいきなりそんなはずはない。はずはなおと思いながらも、イリヤの頬は赤らむ。

 しかし妄想が妄想でしかないことは、すぐに明らかになった。ジオはこう続けた。


「この家を出て、自立するんだ」


 それはイリヤにとってあまりに急な提案で、彼女は食べかけのトーストを落としてしまった。