「おい。おいって」

 気がつくとベッドにいた。こんなにぐっすり眠ったのはどれくらいぶりだろう。誰かが呼んでいるけれど、まだもう少しこうしていたい。また眠れない毎日がやってくるのかもしれないし。

「主人より起きるのが遅いってどういうことなの? 下僕のくせに」

 下僕。
 そのワードが耳に入るなり、イリヤは跳ね起きた。

「申し訳ございませんっ」

 ぶたれるのではと思ったが、覚悟した衝撃はこなかった。

「……ま、さすがに歩き疲れたんだろうけど。これは僕が作った薬。二度寝の前に飲んで。よく効くぶん最悪に臭いし不味いけど、まさか主人がわざわざ用意したものを下僕が飲めないはずがないよね」

 この家の主は一方的にそう言って緑だか紫だかわからないものが入った器を枕元に置いて出て行った。薬は不味いとか臭いというよりは、五感に強烈な負荷がかかるといった感じで、飲み干すまでにかなりの時間と努力を要した。