人混みだったり…薄暗かったりで…こちらから声は掛けなかったけれど、たぶん奈々美ちゃんに間違いないと思う。

彼女も、もしかしてあれ以来スゥとは会えていないのかな?な〜んて…思ってしまう。

それが…セフレ…っていう存在なのか…?

私は冷蔵庫の野菜室の1/3を占領しているトマトを一つ手に取ると洗ってそのままかじってみる。

トマトの赤い汁が手首を伝う。

「んーーーーっ!」

シンクに俯いて、汚れた指先をはらう。


数日前、駅のホームに立つ奈々美ちゃんに気づいて…

フワリと線路に吸い込まれてしまう…そんな想像をして鳥肌が立った。

不謹慎な想像だ。

今はトマトの甘酸っぱさに、ぶるっと鳥肌が立っている。

不謹慎にも程がある。


スゥ…

スマホに手を伸ばして、スゥの連絡先に文字を書き込もうとして…やっぱり消す。

いると迷惑。

いないと寂しい。

私は、いつもソファーに倒れ込むスゥが胸に抱いていたクッションをかかえて…同じように横になった。

スゥの匂いがするような気がする。

てか、コレ…私のクッションなんだけどね。