「なぁ〜ハル…」

私を追ってスゥが声を掛ける。

動揺しているせいか履き損じる左のローファーに躓きながら…気持ちだけは外へ外へと先走る。

「もう…あんな事しないから。
ごめんな。俺、出て行くから…。」

へっ? あ〜〜そっち。

キスの方か……

私は返事をせずに無言で扉を閉めた。

早足で階段を降りる。


何…ソレ。

急に苦しい。

苦しくて…どうにもならない。

出て行くから…って。

急に…ソレなの?

なら…それなら…ごめんなんていらない。

階段を降りるたびに、こぼれ落ちる…

朝から…嫌になる。

朝から…涙なんて、嫌になる。

自分が思う以上の涙に驚く。

スゥなんか…大嫌い。最低な男。

〝大丈夫〟も嘘。

〝平気〟も嘘だよ。

私は…スゥといたら嘘しかつけない子になってしまう…。

だから、もう出て行って。

そう思うのに…信じられないくらいの涙が出てくるのは、出て行って…って思う気持ちすら本心か分からない。

自分で自分の気持ちが分からない。

こんなに最悪な…朝が、人生で稀にあるということを今、知った。