2人なら…「推しと彼氏と彼女の関係」

次の瞬間、「キャっ……!!」と人影とぶつかった心ちゃんがよろけてスマホを落とさまいと手元をあたふたさせた。
あっ……!!
私は走り去る人影に視線を送る。
「すみませんっ…!」
ぶつかった影とは反対側から男の人の声が代わりに謝罪すると彼女の後ろ姿を追って走って行く。
えっ…今の…
「待てよっ!おいっ。どこ行くんだよっ!」
彼女と男性は今はまだリハーサルが行われているであろう建物に向かって走る。
今の奈々美…ちゃん?
「ハルさん、今の2人?知り合い…?」
「あっ…う、うん。よく見えなかったけど…女の人の方は、ちょっと…。」
心ちゃんが差し出す画像チェックもそぞろに、私の身体は勝手に2人を追いかけた。
「ちょ…ちょ、ちょっとハルさんっ!」
ミニショルダーにスマホを仕舞いながら心ちゃんも慌てて私の後を追ってくる。
控えめだけどゴスロリファッションの奈々美ちゃんらしき女性と明るめに髪をブリーチした若い男性は正面入口ではなく建物の裏手に周る。
スタッフオンリーと書かれた三角コーンとロープを押し上げ機材トラックの間を走り抜けて行く。
私と心ちゃんはさすがに躊躇して三角コーンの前で立ち止まる。
前方から「こらこらっ、ここからは立ち入り禁止っ!!」という年配の警備員かスタッフの声が聞こえた。
私と心ちゃんは顔を見合わせて、決心するかのようにお互いロープをくぐった。

「朱雀に会わせてっ!スゥに会いたいっ…」
奈々美ちゃんは警備員を掴みかかる。
「奈々美っ!おいっ…やめろって!!」
「離してっ…スゥに会いたいんだってばっ!!」
奈々美ちゃんの腕が彼氏の手を振り払う。
「すみませんっ…」
奈々美ちゃんの代わりに彼が警備員に謝っている。
掴み合って、彼が奈々美ちゃんの肩を揺する。
私と心ちゃんは少し離れた所で立ち止まる……。
会いたい
会いたい
会いたい
奈々美ちゃんは警備員の胸を叩いて泣き叫ぶ。
そして、朱雀が好きなの…を連呼する。
「奈々美、もうやめろっ!やめろって…。」
大声を聞きつけた警備員が1人2人と増えてくる。
そして、崩れるように座り込む奈々美ちゃんを取り囲む。
彼はアスファルトに額がつきそうな奈々美ちゃんを抱き抱えると、
「奈々美、しっかりしろ…俺がいる!」と必死で声を掛ける。
〝俺がいる…俺がいるから…〟
彼の声を消さんばかりに「会わせて!」を繰り返す奈々美ちゃんはわんわんと泣きわめく。
そんな姿を見つめながら、私の目からもなぜか涙が溢れた。