「頑張らんとね〜。これからが頼もしいね。
今は大事に髪を洗っておやりんさい。」

そう言って…正座の上に置いた私の手を両手でトントンと握った。

「はい。」

シワシワで…温かい。

リュウと私は、裏庭のアキちゃんとそのご両親のお墓にも手を合わせた。

遺骨の無い…アキちゃんのお墓。

ここへ来る前に、駅前の花屋で買ったお花を仏壇と分けてリュウが供えた。

「このところ…膝が悪くてしゃがみ辛くてね。」苦笑するおばあちゃんは、代わりに花を花瓶に差したリュウにお礼を言うと…

「職業病やね。」…と笑った。

「私の生きがいはね…この美容室でお客さんを綺麗にすること、おしゃべりすること。
お気に入りの窓から港の季節を見送りながら…お客さんに合った髪型を作る。
お客さんの喜んでくれる、少しだけ若返ったその顔だけが見たいんよ。
私の生きてる意味は…そうでありたいね。」

どこかで聞いたセリフだ…。

「だって…生きている意味が家族のお墓を見守る…だなんて寂しいじゃろ。」

生きがい…人生の全てをハサミに込める。

おばあちゃんには生きがいと言える仕事がある。

リュウにとってアキちゃんのおばあちゃんこそが美容師の原点なのだ。

「アキを亡くしてから…私に残ったものはハサミしかないのよ。」

おばあちゃんのワンピースが夏の風にそよいで…

一生かけても乗り越えられない悲しみを…こんなに小さな背中で背負っている。

強い…生き方だと…

私は言葉を失くして…それとは反対に胸には尊敬する想いが込み上げていた。