…もっと、ちゃんと…

scene No.1


キャンセルが入って思ったより早く仕事が終わる。

週の初め…スローダッシュにかぎる。

2階の踊り場、アパートの階段の途中で私は顔を上げる。

紛れもない、我が家の扉の方から物々しい物音が……。

男女の揉める声。

9割が女性の声…甲高い声だけでなく、空気が動く音が緊迫している。

捲し立てる彼女の声に男性が

「待てよっ。待てって…話、聞けって…」
…となだめているようだ。

間違いなく我が家の入り口なんだから、男性はスゥしかいない。

私が踊り場で思わず立ち止まった瞬間…

黒髪にカシスピンクのインナーカラー、腰まで長いお人形さんのような…生身の女の子とぶつかった。