〝2人のことが好き〟なんて…調子のいいことを自分から言えないからと言って、この場から逃げようとしている。

最低……。

もしかして、風の音で少し冷静になったリュウは呆れているのではないだろうか。

呆れる…よね。

「私、帰るね。」

私って…ズルくて最低っ。

「ハル…待って。」

リュウが私の手首を掴む。

「色々と…ありがとう。
今日から、自宅に戻ります!!」

私は、気まずい空気を払うつもりで…軽く笑った。

リュウが掴んだ手からするりと逃れると、静かに裏口の戸を閉めた。

今、正直になれと言われたなら…

〝2人のことが好き〟

…それだけ。

それ以外の答えなんて無い。

それ以外の答えを出せない自分がひどくダメな人間に思えた。

それでも、

スゥもリュウも…2人のことが…私は好き。


私が歩道を歩き始めたと同時に小さな雨が頬で弾けた。

顔を上げて空を…

夕暮れの進んだ…濃い紫と淡い緋色のグラデーション。

新しくできたまだ看板も無い隣のお店の柱にアリスさんが寄りかかっていた。

「桐島さん…話していい。」

首だけこちらに向けて…彼女は薄く笑った。