「…………。」

リュウにとって、それは意外な言葉だったのだろうか。

見つめる目が…驚いた表情に変わる。

「だったら、スゥから私を奪ってよ…。」

リュウと私の間の空気が数秒…動きを止める。

私って…ズルい。

自分では選べないことを相手に委ねようとしている。

こんなにズルい女…

リュウの選択でどうとでもしていいから…。


ガタンっ!!

…ゴン…。

その時、お店の入口…鍵をかけた扉の向こうで音がした。

思わず…ビクッとして、2人で振り返る。

リュウは、私の肩をぎゅっとして…無言で
〝見てくる〟と伝える。

扉の鍵を開けて、表の通りをキョロキョロと確認して…こちらに振り返る。

「風かな?」

「そっか…。」

「雨…降り出しそうかもな。少し風が出てきてる。」

〝奪って…〟なんて言っておきながら…
どうしていいのか分からない無責任な私は、リュウが店先を確認している間に、俄に…鞄を肩から下げた。

私って…ズルい。