坂道と階段が並列する路地裏。


飲んでいるせいか、いつもより長く急な傾斜に感じる。

階段の歩幅に疲れて来ると坂道を使って…とにかく両方を駆使して登り切ると私のアパートが見えてくる。

そう、あくまでも私のアパート。

私とスゥの家ではなくて…正々堂々と私の家なのである。

「ありがとうございます。もう大丈夫です。ここなので…。」

出窓のついた形は、今どき古いけれど…リホームされてレンガ造りと黒いガルバニュームの外装のせいで、なかなかモダンに見えるアパートである。

「じゃっ。また…。」

「あの…流青君。今日はありがとうございした。楽しかったです。」

「(笑)俺じゃなくて…オーナーに言っといて。支払い終わってたし。(笑)」

「(笑)そうですね。
でも…色々、助けてもらったし…うさ晴らしもできました。」

「(笑)そ。よかった…。」

「コンテスト頑張ってください。私、応援しかできませんけど…何か力になれることがあれば…言ってくださいっ。」

流青君は歯を見せずに笑うと軽く片手を上げて「おうっ!」と微笑んだ。

電信柱が均等に並ぶ一方通行の細い道を、薄暗い街灯の下、彼は歩き出した。

真夏の夜の少し湿った風が、流青君と私の間を通り抜ける。

私は、お店のお客さんでもないのに…見送り過ぎている彼の背中にハッとして、アパートの階段を慌てて駆け上がった。