それは薫さんと一緒にいるときに、常に付きまとっていた疑問だった。以前、響子さんの前で、似たような質問をされたとき、薫さんがわたしでいいと言ってくれた、と答えたが、わたしより薫さんと親しげな十和子さんを見ていると、心がぐらぐらと揺れた。
「あなたは何が言いたいんですか?」
「はっきり言うわ。薫を返して欲しいの」
わたしはかっと頭に血が上った。
「婚約を破棄したのは自分なんですよね? それが今さらどうして返してほしいになるんですか?」
「あのころは若かったのよ。自分がどれだけ恵まれいるかわかっていなかった。薫より有能で最高の男は他にはいないわ」
「……今さら、あんまりじゃないですか?」
十和子さんは冷たい声で言った。
「あなたに薫は無理よ」
「は?」
「薫はずっともててたし、わたしが知っている間、女が切れたことなんて一度もなかった。本当にみさかいがなかったわ。わたしが薫を拒んだのは、そういう事情も入っていたからよ」
薫さんがもてていたであろうことは、あの外見から察しがついていた。けれど、実際にそれを聞かされて平静ではいられなくなる。
「でも今度は大丈夫。同じすねに傷もつ身同士、仲良くやれると思ってるわ。……あなたなんかよりずっとね」
「薫さんがなんて答えるか、わかりませんよ」
「その答えは、薫に直接聞くわ。あなたには一応知らせておこうと思っただけ。今から役所に離婚届でも取りに行けば? じゃあね」
それだけ言うと十和子さんは部屋から出て行こうとした。けれど、ドアのすぐそばで十和子さんが言った。
「知ってる? 薫の背中に三つ並んだほくろがあるの」
わたしが動揺すると、十和子さんは、にっこりと笑って部屋から出ていった。
一人になるとわたしは落ち込んだ。
意味深な発言をされ、頭が混乱した。けれど、最後には薫さんを信じようと決めた。
