「十和子は、ぼくの遠い親戚なんです。子供のころに親が勝手に婚約させたんです。年を経るごとに十和子は親が押し付けた婚約を嫌うようになって、高校卒業後に、自由に生きると言って家を飛び出しました。今はアメリカで実業家として活躍しています」
ホテルの部屋で薫さんはため息をついた。
「ぼくの父が結婚相手は好きに選んでいいと言った一番の理由は、十和子を見ていたせいなんです。無理やり配偶者を押し付けると、お互いに不幸になると思ったようです」
説明が頭にうまく浸透しない。薫さんが十和子と名前を呼ぶたびに、不快指数が上がっていく。イライラしてしまう。
と、薫さんのスマートフォンが震動した。
「失礼」と断って、薫さんが通話に出た。
「ああ、お父さん、ええ、ええ、はい、すぐ戻ります」
通話を切った薫さんの申し訳なさそうな顔を見て、わたしは言った。
「行ってください。お父さんが呼んでいるんでしょう?」
「……すみません。続きは後で話します」
薫さんは、すぐに部屋から出ていった。当り前のことなのに、わたしより仕事を優先されて、傷ついていた。もうパーティー会場に戻る気にもなれなかった。
ドレスのまま、ベッドに腰かけているときだった。入口のチャイムが鳴ったので、薫さんが戻ってきたのかと思い、扉を開けた。次の瞬間、わたしは身体が凍り付いた。――十和子さんが立っていたからだ。
「何の御用ですか?」
ついつっけんどんな言い方になってしまう。
「あら、お客様に対してずいぶん失礼な物言いね」
「……今は仕事中ではありませんから」
「それもそうね。……少し、話があるの。中に入れてくれない?」
わたしは迷った末に一歩後ろに下がった。わたしが開けた道を十和子さんが優雅に進んでいく。そしてなんの断りもなくソファに座った。
「あなたもこっちへ来なさいよ」
わが物顔で言われ、腹が立ったけど、向かい側のソファに腰かけた。十和子さんは長い足を組み替えながら言った。
「ねえ、あなた自分が薫と釣り合っていると思ってるの?」
「そんなこと、あなたに何の関係があるんですか?」
「……答えないってことは、釣り合ってないってわかってるんでしょう?」
わたしは唇を噛んで俯いた。
