「あら、これ素敵」
それは深みのあるシックなブラウンにマーブル模様のシルバーがしっくりマッチしたジェルネイルだった。
「よかったらやってみますか?」
「あら、いいの?」
「はい。是非、やらせてください」
わたしは仕事の道具を部屋から持ってくると、写真と同じ色があるかを確認して、施術を始めた。まず爪全体にブラウンを塗り、その上からパールグレイで太い波のような曲線を描き、今度は慎重にパールシルバーをその上に細くなぞった。LEDライトを当てて乾かすとようやくジュルネイルは固まった。
「どうですか?」
「まあ、きれいね。今度のお茶会、これで行きたいくらいだわ」
響子さんの表情に笑顔が戻る。天井を見て、ライトで透かすようにして爪を眺めている。
「へえ、世の中いろいろなお仕事があるものね。素敵だわ」
響子さんは角度を変えてネイルした爪を楽しんでいた。
と、そのときインターホンが鳴った。
一瞬、薫さんが帰ってきたのかと思ったが、自分の家に入るのにインターホンを鳴らすはずがない。ドアホンで来訪者を確認して驚いた。
――薫さんのお父さんが画面の向こうに立っていた。
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薫さんのお父さん――啓一さんは、高校生くらいだろうか、若い青年を連れて、マンションを訪問した。響子さんは先ほどまでのはしたない恰好から、しっかり着物を身に着けて、憮然とソファに座っていた。
「今さら何の御用?」
そう言ってぷいと顔を横に向ける。
「すまなかった。幾度でも謝るから、まずは説明をさせてほしい」
啓一さんは隣に立つ青年を紹介した。
「この青年は長谷田慧くん、沙智子の息子だ」
「不愉快です! 帰ってください! 愛人の息子の顔なんて二度と見たくもありません!」
「違うんだ! 慧はわたしの息子じゃないんだ!」
「そんな白々しい嘘なんかついても、騙されませんからね!」
響子さんは鬼の形相で言った。
啓一さんは初めて会ったときの泰然とした態度が嘘のように情けない顔をしていた。
そこで割って入ったのは慧くんだった。
「本当です。俺の父親は長谷田純という名のただの会社員です」
「じゃあ、なぜその息子を連れてくる必要があるのですか!」
啓一さんは気の毒なほどおろおろしながら語った。
「彼女……沙智子と関係を持っていたのは、結婚前までだ。信じてくれ!」
「信じられるわけないでしょう? あなたが結婚後もその女性と会っていたことをわたしは知っているんですからね!」
「違うんだ。お金を渡していただけなんだ!」
それを聞いた響子さんは汚らわしいものでも見るように啓一さんを見た。
「お金を渡さないといけないような関係だったってことでしょう?」
