紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 夜の七時過ぎ、わたしは帰宅した。――響子さんと一緒に。
 
 響子さんは勝手にソファに座った。響子さんがくつろいでいる間に、わたしは着物を脱いで、普段着に着替えた。


「今、お茶の用意をしますね」


 わたしが言うと、響子さんは「そういえば、お腹が空いたわ」とのたまったので、薫さんが用意してくれた料理を出すことにした。薫さんが用意していてくれてありがたいと心から思った。わたしの料理なんて出したら、嫁いびりのネタが増える結果になるだろう。

 ダイニングテーブルに料理を並べて「用意ができました」と言うと、響子さんは椅子に座った。ローストビーフを食べた響子さんは、瞳を大きく見開いて「これあなたが作ったの?」と訊いた。わたしは気まずい思いをしながら正直に言った。


「いいえ、薫さんが作り置きしてくれたものです」

「あなた、薫にそんなことをさせてるの⁉」


 響子さんの眼差しがきつくなる。ただでさえきつめの顔で睨まれると迫力があるのでわたしはたじろいだ。


「薫さん、料理が趣味だそうです……。料理をしているときが一番心穏やかになれるって、この間、言ってました」


 すると響子さんは「ふ~ん」と言ったきり黙々とご飯を食べ始めた。きっと薫さんが料理をやることを知らなかったのだろう。料理は大学生のときに一人暮らしを始めたときにやりだしたと言っていたから、どこか息子と距離のある様子の響子さんが知らないのも無理はないが、悔しげな顔をしていた。緑川家の親子関係はいったいどうなっているのだろうか。食事を食べ終えた響子さんは、「この家、空き部屋ないの?」と言うので、奥の和室に案内した。響子さんはボストンバッグとキャリーケースを持って部屋を移動した。この段階になってわたしはようやく気づいた。

 ――もしかして、響子さんは家出をしてきたのではないかと。

 不安になったわたしは、薫さんに響子さんがうちにいることをメールで知らせた。すると五分もしないうちに、薫さんから電話があった。


『母はどうしていますか?』

「奥の和室に案内しました」

『すみません、迷惑をかけて。たぶん、また父と喧嘩したんだと思います。父にはぼくから連絡を入れさせますので、しばらくの間、母をよろしくお願いします』


 それだけ言って通話は切れた。

 食器を食洗器に入れていると、奥の和室から軽妙な音楽が聞こえた。どうやら響子さんのスマートフォンに着信があったようだ。わたしは思わず手を止めた。


「今さらなんです? え、薫に迷惑はかけるな? わがままはたいがいにしろ? それを言いたいのはこっちです。なんであんな女の息子をわたしが引き取らないといけないのですか! 冗談じゃありません! もし、あの子供を引き取るようなことがあったら、今度こそ離婚ですからね!」


 それだけ言うと通話を切ってしまったようだ。

 思いがけない修羅場に遭遇して、わたしは身動きが取れずにいた。

 つまり薫さんのお父さんには愛人がいて、響子さんはその子供を引き取ってくれと夫に頼まれている、で合っているだろうか?