みんなが笑顔で答える。
「紫はいい人、いないの?」
「え?」
「東京なんていくらでも出会いあるでしょう?」
わたしはたじろいだ。
わたしの結婚式は身内しか呼ばなかったので、みんなわたしがすでに結婚していることを知らない。一応、契約結婚なので、離婚することを考えると話すことに躊躇いがあった。
「……いやー、それがなかなかいい出会いなくて、さ」
この話から離れたくて、わたしは別の話題を振った。
嘘をついてしまった罪悪感に胸が痛んだ。
ふいにエッコがわたしの耳元で言った。
「……今日、佐原くん、来るらしいよ」
わたしは飲んでいた酎ハイを吹き出しそうになった。
「……嘘。え、グループラインに名前なかったよね?」
「うん。佐原くんも東京にいるらしいけど、たまたま出張で近くにいるって曽根原くんに連絡が入ったらしいよ」
「……まじか」
わたしは頭を抱えた。
佐原はわたしが初めて付き合った人だった。そして最悪な別れ方をしていた。あまりに酷い幕切れに、わたしは佐原と別れた事情を涼葉にしか話していなかった。ただ、うまくいかなかったから別れたと他の友達には告げていた。
「それが聞いてよ。佐原くん、紫がいるって聞いたら、急に来るって言ったらしいよ。これは恋の予感じゃない? 同窓会での再会なんて運命的だよね」
エッコの言葉にどこが運命的なのかと叫びたくなる。あいつが来ると知っていたら、絶対に来なかったのに。
「佐原くん、きっとかっこよくなってると思うよ。楽しみだね」
そのときだった。
「久しぶり」
低音が広間に響いた。
「お、佐原じゃん、久しぶり」
男子の一人が声をかけた。
「久しぶり」
佐原は、男子のグループの輪にどかりと腰を降ろした。
かつてクラスを仕切っていた佐原は、エッコの言う通り、かっこよく成長していた。だが薫さんを見慣れたわたしの目には、そこそこのイケメンとしか映らなかった。
やがて場がほどよく緩んだころ、佐原はグラスを持ってわたしの隣に移動してきた。逃げたかったけど、反対側に女子が集まってしゃべっていたので逃げられなかった。
