翌日は遅番だった。
いつもより早くに出勤したわたしは、クリスタルロード川崎店内を見て回った。もちろんお父さんへのプレゼントを探すためだ。
「ネクタイは去年あげたし、キーケースは一昨年あげたし、……他にいいものないかな」
とくにネクタイは父の日やクリスマスにかなりの頻度で贈っているので、できたら別の品にしたい。紳士服のお店で洋服を手に取ってみたりはするけど、ぴんとくるものがなかった。
「あれ、樫間さんじゃないですか」
涼やかな声が聞こえてきて、思わす肩がびくりと跳ねた。振り返ると封書を持った緑川さんが立っていたので、思わず顔が引きつる。
「あ、あら、緑川さん、偶然ですね」
「私服姿を見るのは初めてに思えます。何をなさっているのですか?」
「え、いや、その……」
あわてふためくわたしに、緑川さんがふっと笑った。
「そんな、ハブに睨まれたマングースみたいな顔しないでください」
「は? ま、マングースって……!」
「あなたはいつもぼくを見るたびにそんな顔をする」
緑川さんはいつもの笑顔を浮かべていたが、それを少しだけ怖いと思った。
心の内を見透かすような視線から逃れたくて、わたしは早口に言った。
「今日は、父への誕生日プレゼントを探しているんです。けど、なかなかいいのがなくて。でも父には立場があって下手な品はあげたくないんですよね」
「ああ、それならうちはどうですか?」
「え?」
「先日、いいモンブランが入ってきたんです。もしよかったら見に来ませんか?」
「いやいやいや、室善はさすがに敷居が高くて……」
言いながら、室善はケーキを扱っているのかと、内心驚いていた。
「樫間さんが相手なら、社販でお売りしますよ」
「え、いいんですか?」
「もちろん」
わたしは自分で自分の食いつきのよさに、びっくりしていた。自分の掌返しの素早さに驚いている。だって、天下の室善の品が安く買えるなんてわたしの一生に一度しかない好機だ。その気持ちは緑川さんへの苦手意識を飛び越えた。
「では、ぜひ」
「ちょうど店に戻るところなので、一緒に行きましょう」
いつもより早くに出勤したわたしは、クリスタルロード川崎店内を見て回った。もちろんお父さんへのプレゼントを探すためだ。
「ネクタイは去年あげたし、キーケースは一昨年あげたし、……他にいいものないかな」
とくにネクタイは父の日やクリスマスにかなりの頻度で贈っているので、できたら別の品にしたい。紳士服のお店で洋服を手に取ってみたりはするけど、ぴんとくるものがなかった。
「あれ、樫間さんじゃないですか」
涼やかな声が聞こえてきて、思わす肩がびくりと跳ねた。振り返ると封書を持った緑川さんが立っていたので、思わず顔が引きつる。
「あ、あら、緑川さん、偶然ですね」
「私服姿を見るのは初めてに思えます。何をなさっているのですか?」
「え、いや、その……」
あわてふためくわたしに、緑川さんがふっと笑った。
「そんな、ハブに睨まれたマングースみたいな顔しないでください」
「は? ま、マングースって……!」
「あなたはいつもぼくを見るたびにそんな顔をする」
緑川さんはいつもの笑顔を浮かべていたが、それを少しだけ怖いと思った。
心の内を見透かすような視線から逃れたくて、わたしは早口に言った。
「今日は、父への誕生日プレゼントを探しているんです。けど、なかなかいいのがなくて。でも父には立場があって下手な品はあげたくないんですよね」
「ああ、それならうちはどうですか?」
「え?」
「先日、いいモンブランが入ってきたんです。もしよかったら見に来ませんか?」
「いやいやいや、室善はさすがに敷居が高くて……」
言いながら、室善はケーキを扱っているのかと、内心驚いていた。
「樫間さんが相手なら、社販でお売りしますよ」
「え、いいんですか?」
「もちろん」
わたしは自分で自分の食いつきのよさに、びっくりしていた。自分の掌返しの素早さに驚いている。だって、天下の室善の品が安く買えるなんてわたしの一生に一度しかない好機だ。その気持ちは緑川さんへの苦手意識を飛び越えた。
「では、ぜひ」
「ちょうど店に戻るところなので、一緒に行きましょう」
