「ありゃ嫉妬だね」
店長がため息をついた。
「相手が緑川さんじゃしかたないですよ。かっこよすぎですもん。ただでさえ須藤さまは結婚願望が強い方でしたからね」
「樫間さんには責任のないことだから、あんまり気にしないでね」
須藤さまが帰ったあと、店長と小沢さんが慰めてくれたけど、わたしは激しく落ち込んだ。
*****
薫さんが白金の家に帰ってきたとき、すでに夜の九時を過ぎていた。マンションの玄関前に蹲るわたしを見つけて酷く驚いていた。
「紫さん、来るなら事前に連絡してください」
「だって薫さん、今日はお父さんの会社に行くって言ってたから邪魔したくなくて……」
「とにかく中に入ってください」
今は八月の初旬だが、雨に打たれたせいで、わたしの身体は冷え切っていた。
薫さんに招かれてわたしは彼のマンションの扉をくぐった。部屋にはいると薫さんは、コーヒーを用意してくれた。
「何があったんですか?」
わたしはぽつりぽつりと今日あったことを話しだした。薫さんはため息をついた。
「それは紫さんのせいじゃありませんよ」
みんなが言ったことと同じことを言ってくれたけど、わたしは首を振った。
「わたしいい気になっていたんだと思います。須藤さまのよきアドバイザーになったつもりだったんです。須藤さまの言う通り、上から目線だったのだと思います」
わたしが瞳に涙をにじませると、薫さんがぽんぽんと優しく頭を叩いてくれた。
「そんなことありませんよ。仕事なんですから、いいときも悪いときもあって当然です」
「わたし、自分が結婚するなんて思ってなかったから……っ。調子のいいことばかり言っていました。自分が恥ずかしいです」
結果的に売れ残りの女を演じたことになってしまった。
そして、須藤さまを傷つけてしまった。繰り返し思い出しては、胸の奥を太い杭で刺されたように苦しくなる。
すると薫さん一度キッチンに向かうと、わたしの前に赤ワインのボトルとグラスを置いた。
「明日はお休みでしょう? 飲みますか?」
わたしはこくりと頷いた。
わたしは薫さんの用意してくれたワインをいっきに飲み干した。するとふわんと心と身体が軽くなる。
「ぼくも明日休みなんです。今夜は飲み明かしましょう」
そう言って薫さんも赤ワインを手にしていた。
「あなたが泣きたいときに、そばにいれてよかった」
その言葉にわたしの心の奥に浸透していった。
