紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 サロンの奥でわたしと同じようにノートパソコンを操作していた店長の佐倉さんが歓声をあげる。


「わあ、きてる、きてる」

「どうかしたんですか?」


 店長は嬉しそうにパソコンの画面をわたしに見せた。

 そこには、ヴォーグを訪れたお客様の感想が書かれていた。

 ――kさんのおかげで彼とうまく行きました。あのとき励ましてくれてありがとうございます。また来ます。

――会社での愚痴を担当のネイリストさんに聞いてもらえて、気持ちが楽になりました。爪もピカピカになったし、たまにはネイルも悪くないですね。

――初デートのためにネイルをしてもらったら、いきなり片思いの彼に告白されました。幸せです。この店のkさんにネイルをしてもらうと恋が叶うって噂、本当でした。ありがとうございます。

わたしは嬉しくてつい頬が緩んでしまう。

この好意的な感想はわたしが先日担当したお客様から寄せられたものだった。若干、眉唾ものの誤解も含まれているが、お客様が満足してくれたことが誇らしかった。


「先輩って、接客うまいし、親しみやすいですもんね」


 小沢さんが感心している。

 そう、わたしは親しみやすいという理由でお客様から多くの指名がくるのだ。美人に施術をしてもらったら緊張のあまり身構えてしまうのは、わたしだけではないようだ。

 ネイリストはお客様に美を提供すると共に、大切な時間もお預かりしている。だから、技術だけではダメだというのがわたしの自論だ。


「樫間さん、お客様が見えたわよ」


 店長に声をかけられ、わたしはお客様を出迎えるために急いでカウンターに移動した。