紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 その夜、スタバで緑川さんと合流した。
 
 わたしがソイラテを飲みながら待っていると、姿勢のいい歩き方をしている人が見えて、それが緑川さんだとすぐにわかる。
 
 わたしが手を振ると、緑川さんは歩みを速めてやってきた。


「お待たせしてすみません」

「いえ、わたしも今来たところです」


 緑川さんはわたしの正面に座りながら考え込む仕草をした。そしてわたしにこう言った。


「その敬語やめませんか?」

「え?」

「あとこれからはぼくのことは、下の名前で呼んでください。結婚するんですから」


 わたしはちょっとだけむくれた。


「緑川さんだって敬語じゃないですか」

「ぼくは誰に対してもこのしゃべり方ですから……」

「じゃあ、緑川さんもわたしのことを下の名前で呼んでください」


 緑川さんは幸せそうに笑みを浮かべて口を開く。


「じゃあ、その……紫さん」

「なんですか、薫さん」


 胸の奥がこそばゆくなる。

 これではまるで中学生同士のやり取りみたいで余計に恥ずかしかったけど、不思議と悪い気はしなかった。


「ぼくのほうは家族に紹介したい女性がいることを話しました。会いたいと言ってくれています」

「わたしも母に連絡しました。すっごく喜んでくれました」

「それはよかった」


 緑川さん改め薫さんは心の底からほっと胸をなでおろしていた。

「実は紫さんに話しておかないといけないことがあるんです」

「なんですか?」

「ぼく、八月で室善を辞めて、父の下で働くことになったんです」

「え 室善、辞めちゃうんですか」

「……家の都合で」

「……それは寂しくなりますね」


 うなだれるわたしを薫さんは信じられないものを見るようにみていた。


「寂しいって思ってくれるんですね」