紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 素直に目を閉じると、呼吸を塞ぐように唇に温かな何かが触れた。驚いて目を開けると、すぐ目の前に緑川さんの端正な顔があった。緑川さんが優しい手つきわたしの髪を梳いている。


「!」


 驚きが大きすぎて身動きを取れなかった。はっと我に返って突き放そうとするが、腰に手を回され、動けなくなる。

 夢とも思える出来事なのに、視界の端で車のハザードランプが点滅するたび、これは現実なんだと思い知っていく。

 緑川さんはわたしの唇をぺろりと舌で舐めると、ようやく顔を離した。そしてくすっと笑った。


「だから言ったんです。あなたは隙だらけだって」


 わたしの顔がみるみる赤くなる。急いで車から降りようとするがロックがかかっていて出られなかった。するとわたしの顎を捉えた緑川さんは、視線を合わせてこう言った。

「そういえば、この間のお返事もらっていませんでしたね。もう決心はつきましか?」

「あんな大切なこと、急に決められるわけないでしょう!」


 わたしが叫ぶと、もう一度唇が合わさった。今度は深く口づけられる。情熱的なキスに、腹立たしい気持ちとは裏腹に気分が高揚する。身体の真ん中から何かがせりあがってくるようだった。決して不快ではないむしろ心地いいとさえ思う感覚に酔いそうになる。緑川さんにこんな強引な一面があったなんて思いもよらなかった。

 このまま流されてしまうのが怖くて、キスの合間にわたしは言った。


「わ、わたしの許可もなく触れないって言ったじゃないですか!」

「まだお返事をいただいていませんから、正式な約束ではありません。それにぼくの求婚を無視して合コンなんかに行かれたりしては、正直不愉快です」