「それはよかった」
「わたし実は中華ってほとんど食べたことないんですよ。うちのお母さん、甲殻類アレルギーがあるんです」
「それは難儀ですね」
わたしはお酒を注文したので軽く酔っていたが、この間のことがあるので、たしなむ程度にしておいた。緑川さんは車で来たので、お酒は飲まなかった。
わたしがお手洗いに行っている間に、緑川さんは会計を済ませてしまった。半分払うと言いはったけれど、頑なに拒まれてしまった。
「じゃあ、次は樫間さんがおごってくださいね」
やんわりとそう言われてしまえば、もう黙るしかなかった。緑川さんが家まで送ってくれるというので駐車場までついて行った。黒のベントレーに乗り込むと、家に着くまでの間、わたしは少し眠ってしまった。
「……樫間さん、着きましたよ」
肩を揺すって起こされた。気がつくとわたしのアパートの前に来ていた。
「あ、眠っちゃってすみません」
わたしは目をこすった。緑川さんが自分のシートベルトを外しながら言った。
「それより樫間さん、ちょっと目を閉じてくれませんか?」
「え、なんでですか?」
「いいから」
