紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 緑川さんは道の途中で立ち止まった。


「樫間さん、手を出してください」


 怪訝に思いながら両手を差し出すと、緑川さんがスーツのポケットから、小さなスプレーの容器を取り出し、わたしの手に向かって液体を吹きかけた。


「え、何?」


 驚くわたしに緑川さんは言った。


「除菌用のアルコールスプレーです。しっかり手指の消毒をしてください」

「……はい」


 わたしはさっきの男の手の感触をもみ消すように、急いで手指に消毒液をすりこんだ。

「まったく、あなたときたら……」


 今度は何が言いたいんだという顔をすると緑川さんが渋面になる。


「さっきの男のように、ぼくが手を握ってきたらどうするつもりだったんですか?」

「だって、緑川さんがそんなことするはずないでしょう?」

「あなたはぼくのことなんてほとんど知らないでしょう? どうしてそんなことが言えるんですか?」

「でも、緑川さんはさっきの人とは違いますから」


 緑川さんは小さくため息とつくと、ある提案をした。


「せっかく横浜にいるのだから、中華でも食べて帰りませんか?」

「わあ、中華いいですね」

「では行きましょう」


 案内された店には円卓がいくつも並んでいたが、緑川さんの行きつけらしく奥の個室に通された。わたしにメニューを渡しながら、緑川さんが言った。


「お好きなものをどうぞ」

「じゃあ、小籠包と北京ダックとそれからピータンを」


 緑川さんは店員を呼ぶと、わたしが希望した食事の他にフカヒレの姿煮と海鮮の炒め物を頼んだ。


「うん、美味しい」


 わたしは次々に運ばれてくる食事に舌鼓を打った。緑川さんも楽しそうにしている。