紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 横から声が割り込んできた。耳に馴染んだ声にぱっと顔をあげると緑川さんが立っていた。男の手から強引にわたしの手を奪い返してくれる。わたしは逃げるように緑川さんの背後に隠れた。


「人の婚約者に向かってずいぶんと暴言を吐いてくれましたね」


 誰が婚約者だという突っ込みを入れる余裕すらなかった。

 緑川さんは、いつものように穏やかな口調でしゃべっていたが、目は笑っていなかった。自分より、頭一つぶん背の高い相手の登場を不利に感じたのか、男は青い顔で店の中に戻っていった。


「大丈夫ですか、樫間さん」

「平気です。緑川さん、助けてくれてありがとうございます」

「こんなところで何をしてたんですか?」

「え、いや、えっと……」


 さすがに結婚を申し込まれている相手に合コンに行ったとは言いにくい。

 緑川さんの視線が店内に向けられる。


「……もしかして合コンですか?」

 ぎくっとした。

 店内をみると、小沢さんが元気にしゃべって場を回しているのが見て取れた。それを見て、緑川さんは確信を得たようだ。


「……実は人数合わせで誘われまして……」

「そうですか」
 
 
 心なしか緑川さんの声は硬かった。


「緑川さんはどうしてここに?」

「ちょっとした身内の集まりです。……とりあえず、ここから離れましょう」


 わたしと緑川さんは、横浜駅に向かって歩き始めた。


「もう今日は家に帰ってざるそばでも食べます」

「何も食べてないんですか?」

「はい。さっきの店でご飯を食べる暇もなくあの男に絡まれてしまって」

「何かされたんですか?」

「それが、手相をみてやるって言われて手をだしたんです。そしたら、生命線が短いとか男運がないとか言われて」

 苦笑するわたしに、緑川さんは呆れ顔で言った。


「あなたはいい大人なのに、隙がありすぎるんですよ。だから、変な男につけこまれるんです」


 わたしはむっとした。


「そんなことありません。今日はたまたまです」