紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

「わたし一人っ子だから、お父さんの希望を叶えてあげられるのはわたししかいないんです」
 

 緑川さんは真顔で言った。


「じゃあ、ぼくと結婚しませんか?」

「え?」

「お父さんを安心させたいんでしょう?」

「わ、わたしそんなつもりで言ったんじゃ……」


 わたしは焦った。緑川さんはため息をついた。


「最近、ぼくの母親が頻繁にお見合いの話を持ちかけるので、正直、うんざりしてるんです。昔から母とは合わなくて、母の息のかかった妻は欲しくないので。でも父の会社を継ぐ以上、結婚は避けられません。 ――あなたは、ご両親に花嫁姿を見せてあげたい。ぼくは仮初めの妻が欲しい。利害関係は一致していると思いませんか?」
 
 
 わたしはああそうかと気づいた。緑川さんは最初からこれが目的だったのだ。母親が持ってくるお見合いをかわすためにわたしに気のあるそぶりを見せたのだ。その場しのぎの妻なら、わたしのように平凡で変なしがらみのない女のほうがいいと考えたのだろう。悟った瞬間、少しだけ悲しくなった。

「期限はぼくと樫間さんのどちらかに本当に好きな人ができるまでです。もちろん許可もなくあなたに触れるような真似は絶対にしません。どうですか?」

「……そんなこといきなり言われても……」


 戸籍にバツがついてしまう事態は見過ごせない。しかも、周囲を騙すことになるのだ。楽観的に考えることはできなかった。

 わたしは口ごもりながら言った。


「けど……緑川さんのお父さんの会社って、千海ホールディングスなんでしょう?」


 緑川さんは眉間に皺を寄せた。


「……もしかして、病院での会話を聞いていましたか?」

「ごめんなさい。聞くつもりはなかったんですけど……。だから、わたしなんて絶対に緑川さんにふさわしくないです」

「それはぼくが決めることです。――前にも言いましたけど、妻となる女性はぼくが決めると父と約束していますから」

 
 それでも、いきなり結婚を決めることなんてできるはずもなかった。


「少し、考える時間をください」