緑川さんが鉄壁の笑顔で答えると、お母さんは突然気落ちした様子で顔色を陰らせた。その肩がふるふると震えるように揺れた。
「お母さん、どうしたの?」
伏せていた顔を起こしたお母さんの目には涙が溢れていた。
「ごめんね。お母さんちょっとがっかりしちゃって……。」
「え?」
「素敵な人だし、紫のいい人が緑川さんならいいなと思ってたの」
「やだ、だからって泣くことないでしょう?」
けれど、お母さんの涙が止まらなかった。鼻をぐずぐず言わせて、盛大に泣き始める。
「お母さんったら、もう、どうしたの?」
するとお母さんは震える声で言った。
「紫にいい人ができたら、お父さんにとって一番の誕生日プレゼントになると思ってたの」
どうやらお母さんの今回の上京の目的は、万年筆ではなく、緑川さんに会うことだったのだと気づかされた。何か変だ。いつものお母さんじゃない。わたしは嫌な予感がした。
「ねえ、お母さん、何かあったの?」
お母さんはくぐもった声で答えた。
「今ね、お父さん入院してるの」
あまりに思いがけない発言にわたしは驚いた。
「そんなの聞いてないよ! どこが悪いの?」
「癌だって」
「え?」
「お父さん、死ぬかもしれないのよ……!」
そう言ってお母さんは泣き崩れた。
********
室善の中にある休憩室で、勧められるままに椅子に座ったお母さんは、事情を語り始めた。
「お父さん、六月の健康診断で引っかかって、再検査したら胃に癌が見つかったの。今も病院で検査を受けているわ。そのあと手術だってお医者様に言われてるの」
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
「……お父さんが紫には心配をかけたくないって言ってたから……」
「だからって……!」
そのとき、緑川さんがお盆にお茶を乗せて運んできた。無言でわたしと母の前にお茶を置いた。温かいお茶を飲んだおかげか、お母さんは冷静さを取り戻していた。わたしも叫んだせいで喉が渇いていたので、お茶を口にした。
「わたし、明日仕事休んでお父さんのお見舞いに行ってくる」
「……紫」
わたしは一人っ子なので、自分がしっかりしないといけないと思った。
「お母さん、どうしたの?」
伏せていた顔を起こしたお母さんの目には涙が溢れていた。
「ごめんね。お母さんちょっとがっかりしちゃって……。」
「え?」
「素敵な人だし、紫のいい人が緑川さんならいいなと思ってたの」
「やだ、だからって泣くことないでしょう?」
けれど、お母さんの涙が止まらなかった。鼻をぐずぐず言わせて、盛大に泣き始める。
「お母さんったら、もう、どうしたの?」
するとお母さんは震える声で言った。
「紫にいい人ができたら、お父さんにとって一番の誕生日プレゼントになると思ってたの」
どうやらお母さんの今回の上京の目的は、万年筆ではなく、緑川さんに会うことだったのだと気づかされた。何か変だ。いつものお母さんじゃない。わたしは嫌な予感がした。
「ねえ、お母さん、何かあったの?」
お母さんはくぐもった声で答えた。
「今ね、お父さん入院してるの」
あまりに思いがけない発言にわたしは驚いた。
「そんなの聞いてないよ! どこが悪いの?」
「癌だって」
「え?」
「お父さん、死ぬかもしれないのよ……!」
そう言ってお母さんは泣き崩れた。
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室善の中にある休憩室で、勧められるままに椅子に座ったお母さんは、事情を語り始めた。
「お父さん、六月の健康診断で引っかかって、再検査したら胃に癌が見つかったの。今も病院で検査を受けているわ。そのあと手術だってお医者様に言われてるの」
「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
「……お父さんが紫には心配をかけたくないって言ってたから……」
「だからって……!」
そのとき、緑川さんがお盆にお茶を乗せて運んできた。無言でわたしと母の前にお茶を置いた。温かいお茶を飲んだおかげか、お母さんは冷静さを取り戻していた。わたしも叫んだせいで喉が渇いていたので、お茶を口にした。
「わたし、明日仕事休んでお父さんのお見舞いに行ってくる」
「……紫」
わたしは一人っ子なので、自分がしっかりしないといけないと思った。
