紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

しかし、次の日になっても三日が過ぎても、一週間がたっても何の音沙汰もなかった。緑川さんも通常営業で普通に仕事をしているようだった。

 お昼休憩に行っていた店長がまたものすごい形相で戻ってきた。ついにクビかと覚悟していると、店長は「聞いて、聞いて!」と嬉しそうにやってきた。


「やっぱりわたしクビですか?」

「何言ってるの! それより大変なの! 藤和コーポレーション、買収されちゃったの!」

「え、どこに?」

「千海ホールディングスよ!」

 千海(ちうみ)ホールディングスといえば、日本最大手の自動車メーカーを経営する会社ではないか。他にも様々な事業を展開していることで知られている。


「嘘でしょう!」

「本当よ。本社から正式に発表があったの! でも、これからも経営は藤和コーポレーションに任せられることになったけど、水谷社長だけは解任されたから、万々歳よ!」


 わたしは安堵するあまりほっと胸をなでおろした。


 店長のあとにお昼の休憩に行ったわたしは、食事を早めに切り上げて、室善へと向かった。皮の匂いのする店内で、緑川さんを見つけた。


「緑川さん、こんにちは」

「いらっしゃい、樫間さん。今日はいやに上機嫌ですね」

「緑川さんには教えておかないとって思って。……ヴォーグの親会社の藤和コーポレーション、千海ホールディングスに買収されて、この間の水谷社長も解任されたそうなんです」

「その話なら、ぼくもさきほど耳にしました」

「え、どうやって?」

「千海ホールディングスは室善の親会社なんです」

「そうだったんですか⁉ すごい偶然ですね!」

「ええ、本当によかったです。樫間さんとヴォーグが無事で」

「ありがとうございます」