言葉は最後まで言えなかった。水谷社長の背後に誰かが立ち、……その頭に思い切り熱いお茶をぶちまけたからだ。
「あつっ!」
現れた人物を見てわたしは驚いた。
「緑川さん⁉」
緑川さんはいつものようにきれいな笑顔を見せながら堂々と立っていた。
「ちっ、誰だ?」
緑川さんは茶碗を茶たくごとヴォーグの受付に置くと、懐から名刺入れを取り出し、一枚を抜いて慇懃に差し出した。
「申し遅れました。室善クリスタルロード川崎店の副店長をしている、緑川薫と申します」
「室善の人間が何のつもりだ? ふざけた真似をしやがって!」
「大人げないことをしている子供がいたら、なだめるのが大人の役目でしょう?」
「なんだと?」
「これ以上、恥をかきたくなければ、退散することですね」
その一声でみなが気づいた。いつの間にかヴォーグの前には人が集まって、ひそひそ言いながらこちらを見ていることに。さすがにこれ以上の恥をさらすのは世間体が悪いと思ったのか、水谷社長は「覚えてろよ! ただじゃ済まないからな!」と負け犬のごとき立派な捨て台詞を吐いて退散した。
わたしは悲鳴に近い声で抗議した。
「緑川さん、何をしてるんですか⁉」
「失礼しました。もめ事が起きていたみたいなので、鎮めようと思ったんです」
ちなみに緑川さんがぶちまけたお茶はわたしがさっき用意したものだった。
「あれじゃ、逆効果ですよ!」
「その割に、樫間さんもだいぶお怒りのようでしたが?」
「そ、それは……っ! ……それより、あの人、絶対に仕返ししてきますよ!」
わたしの横で頭を抱える店長の前で、緑川さんはけろりとした顔で言った。
「ぼくは大丈夫です。見切り発車で馬鹿な真似はしません」
本人は飄々としているが、水谷社長がああいった以上、絶対に仕返しにくるはずだ。考えるだけで恐ろしくなる。おそらくわたしはクビだろう。不本意だが、社長の意向に逆らえるはずもなかった。
店長はぐったりしながら言った。
「……さすがのわたしも庇いきれないわ」
「あつっ!」
現れた人物を見てわたしは驚いた。
「緑川さん⁉」
緑川さんはいつものようにきれいな笑顔を見せながら堂々と立っていた。
「ちっ、誰だ?」
緑川さんは茶碗を茶たくごとヴォーグの受付に置くと、懐から名刺入れを取り出し、一枚を抜いて慇懃に差し出した。
「申し遅れました。室善クリスタルロード川崎店の副店長をしている、緑川薫と申します」
「室善の人間が何のつもりだ? ふざけた真似をしやがって!」
「大人げないことをしている子供がいたら、なだめるのが大人の役目でしょう?」
「なんだと?」
「これ以上、恥をかきたくなければ、退散することですね」
その一声でみなが気づいた。いつの間にかヴォーグの前には人が集まって、ひそひそ言いながらこちらを見ていることに。さすがにこれ以上の恥をさらすのは世間体が悪いと思ったのか、水谷社長は「覚えてろよ! ただじゃ済まないからな!」と負け犬のごとき立派な捨て台詞を吐いて退散した。
わたしは悲鳴に近い声で抗議した。
「緑川さん、何をしてるんですか⁉」
「失礼しました。もめ事が起きていたみたいなので、鎮めようと思ったんです」
ちなみに緑川さんがぶちまけたお茶はわたしがさっき用意したものだった。
「あれじゃ、逆効果ですよ!」
「その割に、樫間さんもだいぶお怒りのようでしたが?」
「そ、それは……っ! ……それより、あの人、絶対に仕返ししてきますよ!」
わたしの横で頭を抱える店長の前で、緑川さんはけろりとした顔で言った。
「ぼくは大丈夫です。見切り発車で馬鹿な真似はしません」
本人は飄々としているが、水谷社長がああいった以上、絶対に仕返しにくるはずだ。考えるだけで恐ろしくなる。おそらくわたしはクビだろう。不本意だが、社長の意向に逆らえるはずもなかった。
店長はぐったりしながら言った。
「……さすがのわたしも庇いきれないわ」
