八月の末にわたしは、男の子を出産した。二人で話し合って、名前は碧にした。
「ありがとう。紫さん」
薫さんはそういって幸せそうに笑ってくれた。
その日の夕方には、響子さんが碧の顔を見にきてくれた。
「あら可愛いじゃない。紫さんに似ているのが残念だけど」
としっかり憎まれ口を叩いてから帰っていった。そのすぐ後に響子さんから立派なチャイルドシートのついた車がプレゼントされた。
次の日にはわたしの両親が面会にやってきた。
二人とも孫を代わりばんこに抱っこした。お父さんは、わたしを嫁に出したとき以上に泣いていた。さぞかし孫に甘々なおじいちゃんになるだろうと思った。
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一週間後、わたしは無事に退院した。迎えに来てくれた薫さんと車で家に帰った。
「疲れているでしょう?」
そう言って、オムツ交換や沐浴を積極的にやってくれた。最初に抱いていた不安が嘘のように、優し手つきで子供をあやしている。一ヵ月だけ住み込みで育児を手伝ってくれる予定のお母さんは、初めて見る白金のマンションのペントハウスを見て度肝を抜かれていた。お父さんは営業から部署が移動なって、勤務があるので長くはいられない。最初は里帰り出産も考えていたが、お父さんの今の足では子供を長時間だっこするのは難しいと医者から言われているので、白金に残ることにした。
碧がベビーベッドですやすやと眠ると、久しぶりに夫婦の時間を持つことができた。
「紫さん、幸せをありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
微笑み合いどちらからともなくキスをして、寄り添って眠りについた。
明日も明後日もこの幸せが永遠に続くと信じられる夜だった。
完
