一月一日は、病院の面会時間を待ってから、お父さんのお見舞いに行った。五段重ねのおせちも一緒に持っていった。

 病院の個室でおせちを広げると、お父さんは目を輝かせていた。


「ほう、これは豪勢だな」

「毎年、うちのおせちを作ってくれる料亭に注文したんです。なので味の保証はできますよ」


 お父さんはさっそく有頭エビの鬼殻焼きを口にした。エビはおせちの中でも長寿の象徴だとされている。新しい一年を健康に過ごし、腰が曲がるまで長生きするようにという願いが込められている。そんなうんちくを披露したのはもちろん薫さんだった。他の料理についても説明していたので、わたしはおかしくなった。なんだかんだと薫さんは我が家に溶け込んでいる。その様子が嬉しかった。

「ビールがあったら最高だったんだけどな」


 そうお父さんが言った。わたしは冷たく言い返した。


「怪我人が何言ってるの? 病院でお酒なんて飲めるはずないでしょう?」


 おせちを食べるのにも許可が必要だったのだ。お酒に許可が出るはずもない。去年、胃を手術したお父さんは少量なら飲酒を許させているけど、わたしとお母さんはせめて入院中は飲ませたくなかった。

 あらかたおせちを食べたお父さんは散歩に行きたいと言い出した。わたしと薫さんがお重を片付けている間に、お母さんが車いすを引いて、しっかり防寒対策をしたお父さんを外へと連れ出した。


「薫さん、すいません。お正月まで付き合わせてしまって」

「行くと言ったのはぼくですから。むしろ家族団欒を邪魔してすみません」

「そんなことないです。お父さんもお母さんも喜んでましたから」


 薫さんはほんわかと微笑んだ。

 部屋の窓から病院の中庭を見ると、車椅子に乗ったお父さんが庭で凧揚げをする親子連れを見つめていた。ときおり、お母さんに声をかけて、何かを言っている。庭の端でバドミントンをしていた子供がシャトルを飛ばしすぎてしまい、お父さんに当ててしまう。お父さんはシャトルを持って笑顔で 

 子供に何かを話しかけていた。わたしはその光景をじっと見つめていた。