紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 店長が肩を竦める。


「あなた彼氏いるでしょう?」

「それはそれ、これはこれですよ。彼とは最近うまくいってないし、これを機に乗りかえちゃおうかな」


 小沢さんが悪戯っぽい目で笑う。

 小柄で華奢な小沢さんは美人というより可愛い系の女性だ。緑川さんと並ぶとお似合いである。小沢さんも自分の魅力をわかっているので、自信ありげだ。


「でも、緑川さんって、小沢さんより樫間さんのほうが年齢が近いんじゃない? 案外気に入られてたりして」


 思いがけないことを言われ、わたしの肩は活きのいいエビのようにビクッと跳ねた。


「いやいやいや、わたし、緑川さんに興味ありませんから」


 本音である。さっきまで室善で親しげに会話したばかりなのに、わたしの根底にはまだ緑川さんへの苦手意識がこびりついている。


「それに緑川さん、好きな人いるみたいですよ。さっき相手に贈るためのプレゼントの相談をされましたから」


 小沢さんは「え~」とこの世の終わりみたいに暗くなる。


「じゃあ、友達に誘われた合コンの話、受けちゃおうかな」


 小沢さんは若さゆえか、切り替えが早かった。そこで、小沢さんはわたしを見た。


「先輩も合コンに行きませんか?」

「え、いつ?」

「来週の土曜日の夜です」

「……ごめん。その日は用事があって……」

「え~、残念」

 わたしはさりげなく断れたことにほっとしていた。

 小沢さんとその友達が出席する合コンなんて行ったら、引き立て役になるに決まっている。

 小沢さんがただの好意で誘ってくれたのはわかっている。だからこそ余計に、断るのが辛かった。