クリスマスイヴの当日、わたしはもちろん朝から仕事だった。薫さんも普通に仕事に出かけてしまったので、あまりクリスマスという雰囲気ではなかった。
 
 職場で途切れることなく次々に訪れる予約客をさばき、ようやく帰途につくころ、わたしはクリスタルロードの近くにある家電量販店に向かった。そしてあるものを購入して白金のマンションに帰った。
 
 家につくと、部屋が薄暗くなっていた。玄関を通ってリビングに行って驚いた。部屋の中央に大きなクリスマスツリーが飾られていたからだ。灯を絞った部屋の中で電飾がきらきらと輝いている。ダイニングテーブルには七面鳥やローストビーフ、キッシュ、フォアグラのブルスケッタ、そしてブッシュドノエルなど手の込んだ料理が並んでいる。


「紫さん、お帰りなさい」

「これ、薫さんが用意したんですか?」

「ええ。少し張り切ってしまいました」


 部屋をみれば、薫さんがクリスマスをどれだけ楽しみにしていたかがよくわかる。わたしは自分の用意したプレゼントに自信がなくなった。


「いつから用意してたんですか?」

「今朝からです」

「え、仕事は?」

「もちろん休みを取りました。――紫さんを驚かせたくて」


 今朝は普通に出勤したように見えたが、まさかこんなことを考えていたなんて思いもよらなかった。


「ツリーきれいですね」

「お店で売っているものの中で一番大きなものを買いました。来年も再来年もずっと使えるように」


 わたしは嬉しくなる。薫さんの中でわたしが隣にいることは当たり前になっているのだと実感できた。


「さあ、座ってください」


 言われるままにダイニングテーブルに座った。

 薫さんの作ってくれた料理はプロ顔負けの仕上がりだった。


「美味しい。お店の人が作る料理みたいですね」

「ああ、それは当然です。行きつけのお店の店長に教えてもらいましたから」


 聞くところによると、薫さんは一ヵ月以上前から、よく通っている創作フレンチのお店やカフェで料理を教わっていたそうだ。クリスマスに対する意気込みの強さにわたしは驚いた。


「今日は今まで作ったことのない料理が作れて幸せでした」


 料理好きな薫さんらしい言葉だった。


「そうですよね。薫さんにとって料理は最高の癒しですからね」


 すると薫さんは意味深に笑った。


「今はそうでもありませんよ」

「? そうなんですか?」

 わたしは不思議になって首をひねった。