わたしは慌てて、お風呂場からバスタオルを取ってきて、薫さんの頭や肩を拭いた。薫さんはコートを脱ぐと、スーツの上着も脱いでネクタイを緩めた。首筋から色っぽい空気が漂ってきて、どきりとした。
「あ、ご飯食べますか? 薫さんのぶんのお食事、まだ取ってあるんですよ」
「ありがとうございます。でもそれより先に食べたいものがあるので」
「え?」
わたしが顔をあげると、薫さんがキスをしてきた。唇を吸いながら時々舐めるので、背筋が震えた。反射的に目を閉じると、口づけは深くなった。わたしが期待してやまなかった淫らな口づけだったので、自然と受入れてしまっていた。薫さんの手がわたしの浴衣の腰ひもを解いた。
わたしは自然に目を閉じた。
*****
わたしを抱いたあと、薫さんはすぐに眠ってしまった。
薫さんがしっかりとわたしの身体を抱きしめているので、身動きができなくて困った。
――どうしよう。幸せすぎる。
わたしは自分の幸福を噛みしめながら、再び眠りについた。
朝、わたしは異変を感じて目を覚ました。わたしを抱きしめる薫さんの身体が燃えるように熱かった。
「薫さん、大丈夫ですか?」
わたしの声で薫さんが目を覚ます。
「……すみません。風邪を引いてしまったようです」
薫さんの声は枯れていた。
そういえば昨夜、薫さんは濡れた格好のままやってきた。疲れもたまっているだろうし、無理もなかった。
「わたし、薬を買いに行っています」
起き上がろうとしたわたしを薫さんが止めた。
「薬なら常備薬があるんです。すみませんが鞄の中から持ってきてくれませんか?」
「はい」
わたしは寝室の隅に放りだされた浴衣に袖を通し、廊下に置かれた鞄からピルケースを取り出して、お水と一緒に薫さんに渡した。薫さんは一度、億劫そうに起き上がると、薬を飲んで、また横になった。
「すみません。せっかくの旅行なのに、こんなことになってしまって」
「いいんです。旅行ならまたいつでも行けるじゃないですか。今は休んでください」
本当に今はただ二人でいれることが嬉しかった。薫さんが微笑んだ。
「あなたのそういう優しいところが好きですよ」
今日の薫さんは甘すぎる。やがて薫さんは寝入ってしまった。
時計を見ると朝の九時過ぎだった。朝食はたしか大広間でバイキング形式で行われるはずだった。わたしは一人で本館に行った。自分の分だけ手早く取って食事を済ませると、仲居さんを捕まえて、病人がいるので、お昼にお粥を持ってきて欲しい旨を伝えた。
わたしは十二時近くまで薫さんのそばで旅行のガイドブックを読んで過ごした。今度は桜の季節に来れたらいいなと思った。正午ちょうどに仲居さんがお粥を持って姿を見せた。わたしのぶんのおにぎりとおばんざいもあったので嬉しかった。
ちょうど薫さんが目を覚ましたので、熱々のお粥を食べてもらうことができた。食べ終わるとまた眠ってしまった。そっと額に触れると、だいぶ熱は下がっているように思えた。
夕方、薫さんの熱は下がっていた。汗をかいたからと言って、薫さんはお風呂に入るとさっぱりした浴衣姿で戻ってきた。
