紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています

 柱にかかった時計を見ると、もうすぐ仕事の時間である。


「ありがとうございます。もうちょっと考えてみます」


 礼をして帰ろうとしたときだった。


「樫間さんにお聞きしたいんですけど、最近、女性の間で流行っているものはありませんか?」

「え?」

「実はぼくも知り合いの誕生日が近いんですが、欲しがりそうなものがわからなくて」

 どうやら緑川さんには好きな人がいるようだ。

「普通にネックレスとか指輪なんかではダメなんですか?」

「いえ、そういうものを贈り合うような関係では……」

 緑川さんが恥ずかしそうに両手を振る。
 その姿は照れ屋の大学生のようで可愛かった。

 口調から察するに、まだお付き合いには至ってないようだ。

「だったら消えるものがいいかもしれません」

「というと?」

「普段は買わないちょっといいお菓子とかお酒とかはどうですか? 気軽に受け取ってもらえると思いますよ」

「なるほど。ありがとうございます。参考にします」

 緑川さんは店の外までわたしを見送ってくれた。

 わたしはロッカールームで制服に着替え、仕事に入った。道具の手入れをするために、ネイルサロンのカウンターに立つ。


「先輩、さっき室善にいましたよね? 緑川さんと何を話していたんですか?」

「たいしたことじゃないよ。お父さんの誕生日プレゼントの下見に行ったの」

 小沢さんはほうとため息をついた。


「室善の緑川さんって素敵ですよね」

「あら小沢さんはああいう人が趣味なの?」

 店長が訊いた。

「だって気品があってかっこいいじゃないですか。もの静かで知的なところがとくに。それに大学もいいところ出ているらしいですよ」