木下 咲の話

 私、小学校の時からよく変わってるって言われてたんです。まあ、言われ始めたのが小学生からだっただけで、幼稚園の頃から変わってたんですけどね。
なんかね、いらない紙とか丸めて棒状にして空を見るのが好きだったんです。綺麗なビーズになって落ちてくるの。蒼い綺麗な丸がね、さらさらって。それを小学校に入って初めて仲良くなったなぁって思える子に言ったんです。
「咲ちゃん変わってるね」
その子はそう言いました。変わってる?私そういうの全然わかんない。変わってるとか普通とかって全然わかんないってことだけはわかったんです。小1にして。やっぱり私ってすごいんだって思った。
気づけたんですよ。自分がすごいのかも知れないって。
よく、わかんないですか?まあ、そうですよね。いいんですそれで。なんか、気に入っちゃってるんですよ。誰にも理解されない私、かっこいいー!みたいな?
すごい素敵じゃないですか?素敵なもの集めるの好きなんです。青い空から蒼いビーズがぱらぱらーって。うふふ
先生も見てみたくないですか?一緒に観にいきましょうよ。今外でて。
あ、今授業中か。誰かに見られたら先生までおかしなやつだって思われちゃいますね。うふふ
おそろいですね?
嬉しい。
で、私すごいんですよ。さっきの話に戻りますけど。小学校の時ね、算数の授業で難問を解いてみようっていうのがあったんですよ。私、いつも1番だった。国語もね、いつも私だけ褒められるんですよ。感性?っていうのかな。他の人と違うんだよね。で、周りの子が咲ちゃんすごいねって褒めてくるの。私それがすごい嫌だった。
え?すごい?あんた達にわかるの?
わかんないよね?感性違うんだから。じゃあどこがすごいのか具体的に言ってくれる?笑わせんな。
いつもそう思ってたんです。
ひねくれてる?
私もそう思います。
小学校二年生の時の担任がね、「ちゃんと授業は受けましょう」って、そう言ったの。体育の時間にね。ほら私、体育苦手でしょ?前、先生にも話したよね?新体力テストE判定だって。
さぼってるって思われたのかな?サッカーやってた時にね、校庭の隣にある林のところまで歩いてぼーっと見てたの。林の中をぼーって。私には見えたの。妖精さんが。あ、私頭の中で2匹妖精さん飼ってるんだけどね。あ、これも変わってます?うふふ
その2匹、リリィとダイアナって言うんだけどね、その2匹が林の中に見えたんです。でも、信じてもらえなかった。先生に、サボってたんじゃなくて、妖精さん達が呼んでたから見てただけだって言っても信じてもらえなかった。馬鹿なこと言ってないで授業に参加しなさいって。私、30分くらい怒られた。だから、先生って嫌いなんだ。
でも何でだろ、坂本先生はね、嫌じゃないの。なんか、すごい好きなの。顔見ると、わー!私、この人好きだわーってなるの。だから、好きなの。先生なら、変わってる、嘘つかないでって、言わないよね?


坂本 晴彦の話
 
 蒼いビーズが空からさらさら。考えてみたらそれはとても綺麗な光景だった。たぶんこの子は俺の小さい頃の分身だと思った。一緒にその景色を見たい。そう思った。
この子は自分のことが好きだ。自分もこの子を手に入れたいと思っている。奇想天外な子と病んでる俺。いや、病んでるのは2人ともか。イレギュラーな2人なら、別に勝手にくっついてもみんな許してくれるんじゃないかって思った。別にいいじゃないか。
この子は、奇想天外な発想でみんなの「自分はすごいのかもしれない」という小さな芽を踏み潰して殺した。俺がやりたかったことだ。それはどんな快感が得られるのだろうと俄然興味が湧いた。
単純に彼女が羨ましかった。
でも、俺はもう何も破壊したくない。この破壊衝動がどうしても止められないのが嫌だった。俺は、異常性愛の持ち主なのかもしれない。
俺にとって、破壊衝動は性欲だ。破壊することでしか快感を感じられない。
普通じゃないのは、変わっているのは、たぶん俺の方だ。

死のうとしてたって言ったね?
今日はとりあえず死ぬのはやめて、一緒に生きてみないか?2人とも、なにも殺さずに。