到着ロビーに入ると、秘書の山下が待っていた。俺達を見ると丁寧に頭を下げた。

「ああ、秘書さん」

 山下に気づいた彼女が、一瞬頭を下げると走り出した。


「やはり、あなたでしたか」

 山下が、にこやかに彼女に声をかけた。


「その節は、社長に無理矢理車に乗せられるところを助けて頂きありがとうございました」


「いえいえ、とんでもございません。傲慢なうちの社長が失礼いたしました。お怪我はございませんでしたか?」


 これじゃまるで俺が悪者で、山下が正義の味方みたいなストーリになっているじゃないか……


「ええ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」


「申し遅れました、わたくし秘書の山下と申します。ご旅行はいかがでしたか?」


「あっ。鈴橋と申します。とても楽しませて頂きました。」


「それは良かったです。社長も、こんなにお綺麗な方とご一緒で、さぞかし楽しまれ事でしょう」


「そ、そんな綺麗だなんて…… 言われた事ないです」


 なんなんだ二人して。俺の事を無視して話しているんじゃねぇよ。それに、綺麗だって思ったのは俺だ。なんで山下が言うんだ!


 俺が言いたかった……


「社長、どうされました?」


 山下が俺の方へ目を向けた。

 俺は、じとーっと、山下を睨んだ。山下の顔が、明らかに引きつった。

 彼女も俺の方へ振り向いた。俺の顔を見るなり、顔を引きつらせた。


 もう、我慢の限界だ。

「どけどけぇ」

 俺は、山下と彼女の間へ割って入った。


「大人気ない……」

 山下が呆れたように、ぼそっと言った。